とある路上にて



   えっと、初めまして。初めましても可笑しいかな?でも、わたし達、話したこと無いですしね。同じ学年だったって言っても、同じクラスにもならなかったし・・・。でも、噂は聞いてましたよ。『A組の姫』。有名でしたものね。あの文化祭のお姫様姿、わたしも見ましたよ。すっごく綺麗だったのを覚えてます。お世辞じゃないですよー。お陰でわたしのクラスの男子ものぼせ上っちゃって、あの後ちょっと揉めたカップル多かったんですよ。と、いっても、わたしの所もでしたが。ああ、あなたのせいじゃないですよ。あれはあいつのせいです。気にしないで下さい。お姫様役を演じていた事は妙に覚えてるんですけど、劇は何をやったのかって聞かれると覚えてないんですよね。A組ってあの時なにやったんでしたっけ。確か、有名所でしたよね。ラプンツェル!あの髪を上って魔女がやってくる奴ですよね。やっぱり、推薦でしたか?髪が一番長かったから?えー、絶対それは後付けの理由ですって。

 いやしかし、まさか今になってA組の姫と話すなんて・・・。いやいやいや、A組って言ったらただでさえ凄い特進科文系クラスで、その中で一目置かれてるって、他の一般ピーポーにとっちゃあ凄い事だったんですって。いやー、文系A組と、同じく特進科理系クラスのF組も近寄りがたかったけど・・・。わたし?わたしは文系でしたよ。普通科の。2年の時なんか悪名高きC組でした。覚えてます?というか知ってます?C組の丸秘クラス目標。目指せ!クラス平均を学年平均マイナス10点以内に!それぞれのクラスで平均点が5点違うだけで先生達が話し合いを行うと噂のうちの学校でですよ?そりゃ特進科は論外ですけど・・・。今思うととんでもないですよね。はっはっは。

 そういえば、むかつきますが、私の彼氏も特進科だったんですよね。F組。え?お陰さまで婚約しちゃいました。式を上げるのは、まだ暫く先ですけど、取りあえず籍だけでも。ありがとうございます。え、あいつですか?あいつも大学生ですよ。しかも結構レベルの高い大学行きやがって・・・。ああ、あいつにも話を聞く予定なんですか。じゃあ、わたしからもきっちり言っておきますね。あいつ、何だかんだ言うと思いますけど、ああ見えて斎藤君の事親友レベルには思ってたんですよ。だから、根気よく聞いてやって下さいね。

 斎藤君とは、結構仲良かったかな?えーっと、わたし、あなたが何処まで知ってるか知らないんですけど、実は、彼と付き合ってた事なんて知ってたり・・・しました?しましたか!そうですか!えー!じゃあ、付き合って数週間で今の彼に乗り換えたとかそんな話も聞いちゃいましたか!?聞いちゃいましたか!そっかそっかぁ・・・。えええっと、言い訳していいですか!?ここで黙っていると、多分人生後悔すると思うので!でも言い訳なんて逆効果!?でも、勘違いしないで下さいね!別に、そんな、揉めたりとかはしてないですし、別れた後も、わたしとあいつと斎藤君で遊び行ったりしたんですよ!つまり、えっと・・・!

 ・・・あ、何だ、斎藤君から全部聞いてたんですか?早く言ってくれればいいのに・・・。斎藤君、わたしの事、実はぼろくそ言ってたでしょう?え、そんな事言ってたんですか!?うわー、斎藤君らしい。実はわたしの方が利用されてただけだったり?流石斎藤君。やる事が違うなぁ。って感心する所でもないけど。

 斎藤君は、結構面白い人でしたよね。皆はどう思っていたかは知らないけど、わたしはそう思います。うーん、あと、斎藤君、頭良かったですよねー。わたし時々数学習いに行ってましたもん。下手な塾講師より教え方上手ですからねあの人。あの人のお陰でわたしは指数を理解できましたから。あいつ?あいつは自己流の理解の仕方なんで、聞いても無駄なんですよ。その点斎藤君は優しいし丁寧だし面白いし。パーフェクト!今更ながら、何でわたしあいつにしたんだ・・・?

 だから、斎藤君が居なくなった時はショックでしたねー。いつでしたっけ、春でしたよね、居なくなったの。大騒ぎなりましたものね。家出か、はたまた事件か、で揉めましたし。でもすぐにそのショックすら忘れ去られていって、でもまだそのショックから抜けてない自分がいて、うん、あの時は困りましたね。斎藤君がいなくなってから、わたしに群数列を教えてくれる人もいなくなりましたし、それに、恥ずかしいんですけど、あいつとの喧嘩の仲裁役もいなくなりました。

 結構わたし嫉妬深いんで、すぐ疑ってはあいつを監禁してみたり?監視カメラの数増やしてみたり?メールと着信3分ずつ繰り返してみたり?しちゃうんですよ。えへへ、愛ですよ、愛ー。で、いっつも斎藤君が、「いい加減矢坂を学校に行かせてやらないと、単位やばいとおもうよ」って。あ、彼氏の名前が矢坂なんです。矢坂暁。だからわたしは、矢坂唯乃になるんです。えへへ。でー、斎藤君がいっつもさり気無く、事の真相を教えてくれたりして、それでわたしも納得して、あいつに謝ったりしてたんです。だから、斎藤君はわたしたちの恋のキューピッドだったんです。実際付き合うきっかけも、斎藤君だし。

 あいつ、わたしと付き合う前、先輩の事が好きだったんです。でも、あれ、多分先輩が好きというより、好きだと言ってると斎藤君が面白い反応を返してくれるから、言ってたのかな。わたしとしては、後者であって欲しいですけど。でも、馬鹿ですよねー。斎藤君が先輩の事大好きなのは最早自明の理でしたし。でも、わたしもそれに気付きながら告白しました。こっちから告ったんです。勝算はありました。だって、斎藤君があいつの事嫌いではないけど、先輩を好きと言ってる点においては、疎ましく思っていたのには気付いていましたし。多分、わたしの目論見に気付いてました。それに、先輩と斎藤君は結ばれる筈が無いのですし。ね?だって双子なのに。先輩と斎藤君。で、予想通り斎藤君はオーケーしてくれました。勿論わたしは斎藤君の事も好きでした。ただ、本当に好きなのが暁だったというだけで。結構仲のいいカップルでしたよ、わたしたち。実際に付き合っていたのは、3週間と4日です。互いに互いが、一番は自分じゃない事を知っていましたから、とても楽でした。奇妙なカップルですよね。だって、恋愛相談してたんですもの。暁について教えて貰ったり、こっちが先輩と暁の関係について教えてあげたり。

 なんで、そんなに好きなのに斎藤君と付き合ったかって?決まってるじゃないですかー。あいつに少しでも嫉妬というか、気にしてもらう為ですよ。いじらしいですよねー!って自分で言っておきます。まあ、現にその作戦は少しだけ成功しましたし、いいじゃないですか。

 別れたきっかけ?それはあれですよ、記念すべき斎藤君がうちに遊びに来た時です。うち、親はどっちもフルタイムで働いていて、わたし一人っ子だし、20時ぐらいまで一人なんです。あの日も、そうでした。まあ、親がいない方が気が楽だし、斎藤君は変なことする人じゃないしって事で、一緒にリビングでお茶飲んで、お菓子つまんでました。で、もうすぐ19時だし帰るってことで、玄関まで見送ったんです。丁度そこで斎藤君が『唯乃ちゃん。矢坂とは上手くいった?』って。『あいつがどんな返事したとしても、解放してあげなよ。あいつそうとう出席日数やばいから、下手したら留年だって』。斎藤君、どうしてあの時うちにあいつが居るって分かったのかなー?え?ああ、ごめんなさい説明下手で。あの日から一週間位前に、あんまりあいつが先輩先輩言うから、ちょっといらってきて、わたしだけ見てほしいのになってことで、眼隠し耳栓の上手錠掛けてわたしの部屋に居て貰ってたんです。あ、ちゃんとご飯とか食べさせてましたから大丈夫ですよ!トイレも時間置いて行かせてましたし。それで、斎藤君の言葉を聞いて、わたし気付いたんです。そういえば、わたしついいらっときて、あいつをわたしの部屋に閉じ込めてたけど。

 そういえば、わたしあいつに好きともなんとも言ってないやって。気付いたんです。

 いやー、びっくりしましたね。だめじゃんわたしって感じでした。暁のせいだよってずっと言いながらご飯食べさせても、あいつ耳栓してるから聞こえないし、わたしが世話してるってことも気付いてなかったりして。誘拐されたと思ってたらどうしよう。いやー、焦った焦った。そう言ったら斎藤君も流石に呆れた顔して、『取りあえず、愛の告白してきたら?』って言って手を振って外へ出て行きました。あ、見送らなきゃ、って思いと、想い伝えなきゃって事で暫くフリーズしてましたが、外の雰囲気的にどうやら先輩が迎えに来ていたっぽいので、自分の部屋に向かいました。あの時ほど緊張した事は無いですねー!

 ま、それからすったもんだあって、晴れてわたしとあいつは付き合う事になったんです。え、何時って?えへへ、内緒ー。梅雨明けの時期でした。だから、斎藤君はわたし達の恋のキューピッドなんです。

 ちょっと引いてます?でも、確かにあいつに色々色々してますけど、斎藤君が居なくなってから、余りそう言う事も無くなったんですよ。うーん、というか、斎藤君が居なくなってから、逆に出来なくなったんですよ。やりすぎたらどうしよう。下手したら、暁を殺してしまうかもしれない。わたしは殺人で罰が下ろうとそれは粛々と受け止めますが、暁が死んだらそれこそこの世の終わりです。わたしの世界は、あいつで全てですから。うん、斎藤君が居れば、さらりと加減を見て止めてくれますが、今や居ないんです。やりすぎてしまいそうなら、やらない事に越したことはありません。だから、今はあいつが他の女と喋っている所を見ても、あいつに何かするのはやめました。

 小説?暁が読んでいるのを横から盗み見したぐらいです。そうそう、あいつ、自分が書かれてる件で大爆笑してましたよ。『あいつ俺の事マジ嫌いなのな!うけるー!』って言ってました。わたしと付き合ってる部分は、こっそりちゃんと読みました。へへ、嬉しかったですよ。斎藤君に、そういう意味で好かれてはいませんでしたけど、大切に思われていたのは分かりましたし。本当、斎藤君と先輩何処行ったのかなあ。もしかしたら、明日にでもひょっこり帰ってきたりして。きっと、裏社会のお話とか、見知らぬ国の思い出話とか、してくれるんですよ。

 あ、明日暁に聞くんですか?じゃあわたしからも今日の内にきちんと真面目に答えるよう言っておきますね。

 ね、わたし、他の女とあいつが喋ってても、あいつ『には』何もしないって言ましたよね?わたしの世界の全てはあいつだって言ったでしょう?確かにあいつが死んだりしたらわたしも死ぬ。でもね、他の人間については、実は結構アバウトな考えしか持ってないんですよ。

 さすが元A組。やっぱり頭が良いね。つまり、『そう言う』事。

 じゃ、そろそろわたし待ち合わせがあるから。またね。