両想いの恋が終わる時。

  ね、もう、知らない振りは出来ないよ。
 寒い寒い、冬。そういえばもうすぐ雪が降るらしいね。道理で空気がしんとした独特の静けさを湛えているし、空が、重い。この重さは、イコールという数学記号で私の気持ちと結びついてくる。そっと、ひそやかに、小さな二重線は私の心を繋ぎとめてからめとるのだ。
 思わず、両手を擦る。自分の手はぞっとする位冷たくて、まるで死体のようだった。だんだん自分が先っぽから崩れ落ちていくようで、なんとも言えない恐怖に襲われて、必死に手を擦る。やだ、やだ。寒さで感覚が麻痺して、擦っても擦っても、何にも感じない。それがまた恐怖を膨張させて、私は涙目で爪を立てて手のひらを引っかく。手が爪が通った後で真っ赤になって漸く、私はほっと一息を付いた。
 待ち合わせの相手を待つ時は、ひどく心が騒ぐ。ざわざわ、ざわざわ。まるで波のようだ。どうせならばこの気持ちも水平線まで持ち帰ってくれればいいものを、波はそ知らぬ顔でやって来ては私を嗤って優雅に帰っていく。そして、もう一度初心なお嬢さんの様にやって来ては、下卑た笑みを残していくのだ。ああ、いらいらする。早くやってくればいいのに。どうせ内容も分っている。そして、その後の切なさも涙も。
 あ。
 雪とともに、彼はやってきた。マフラーに顔を埋めて、顔を真っ赤にして。十何年間で、幼馴染の初めて見る顔だ。ねえ、もうすぐクリスマスだね。今年は、皆でクリスマスパーティも出来ないだろう。折角ホワイトクリスマスになりそうなのに。私達が13歳の時もクリスマスに雪が降って、私達は酷くはしゃいだのを覚えてるよ。大切な、貴方との想い出だもん。私が言ったこと思ったこと全てを忘れても、貴方が呟いた一言、その息の掠れ具合でさえも鮮やかに思い出せる。

 ねえ、何で、今なの、

 夢にまで見た、君からの「スキ。」ねえ、何で、今なの。昔じゃない。過去でもない。でも今でもない。私は君に恋「してた。」大好きで大好きで、何度涙を流しただろうか。冗談に誤魔化してあげたチョコレートは、君の好みを思いっきり考えて、甘さ控えめのビターチョコレート。ねえ、私凄く苦しかった。でも、幸せだった。君を好きでいた日々は、世界がまるでストロボで焚かれてるようだった。私はそこでは、ドラマのヒロインの様に恋をしていた。のに。君は、別の人を隣に歩かせて。だから私も泣いて泣いて、必死に諦めた。時が癒してくれると、思い込んで。少し傷が乾いたから、私も別の人の隣を歩くことにしたのに。

 何で、今。

 ひゅう、ひゅうと白い息が漏れる。言わなきゃ。言わなきゃ。ごめんねって。私もう付き合ってる人がいるって。ねえ、私の口よ動いて頂戴!雪が、静かに舞う。私と、君の間に。ああ、もう私これから雪が嫌いになってしまう。きっと雪を見るたびに君を思い出すのよ。想い出になるから大丈夫?想い出になるまでに私はどれだけ目から透明な血を流すのだろう。
 きっと、これが最後だ。彼とのうつくしく、きれいな、おもいでも。ごめんねは、きっとさよなら。心臓が五月蝿い。ごめんね。君を好き。でも、私は「あの人」の隣で歩くことにしたの。きっと、私達は両思いだった。ただ、タイミングがずれただけだ。致命的な、ズレ。誰が悪いわけでもない。ただ、歯車がずれただけだ。ごめんね。言わなきゃ。なんでこんなに、さよならって苦しいの。私も、君と幸せになりたかったよ。こんな時が来ると、予想はしていたのに。その時が来てしまった。ねえ、願っているよ。君の幸せを。君のこれからを。その隣に私がいないことが、酷く悲しい。じゃあ、ね。それじゃあ。

ごめんね。(君が、好きでした。)



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