とある玄関前にて。




 お引き取り下さい。話す事は何もありません。貴女の様な何処の誰かも分からない様な人に話す事はありません。友人だって言うけれど、だからといって、何ですか。そっとしておいてください。5年?そんな歳月に何の意味がありますか。私は、あの時、全てがとまったんです。そして、今、それはもう終わった事件なんです。

 大体、今更友人面して、何ですか。『彼らの思い出を聞きたい』?聞いてどうするんですか。どうせ単なる好奇心と暇つぶしでしょう。そんな、わざわざ傷を抉り返して楽しいですか?楽しいんでしょうね。私を見た時の貴女の顔、とても輝いてましたから。さぞかし人の不幸が面白くてたまらないんでしょうね。ですが、私はとても不愉快です。大体、貴女は友人と言いましたが、友人なら何故あの時、一緒に探してくれなかったんです?私は今でも覚えていますよ、誰が、一緒に、探そうと声をかけてくれたか。貴女はいませんでしたよね。ほら、そんな人に友人を名乗る資格はありません。それどころか、家で貴女の名前を聞いた事もありませんよ。クラスメイトの子達や、知り合いという子は、あの子たち、よく夕食の時に話してくれますが、貴女の名前は終ぞ聞いたことはありません。そんな特徴的な名前、忘れるはず無いでしょう。本当に、貴女友達なんですか?

 貴女もしつこいですね。もう、閉めてもいいですか?家事がたまってるんですよ。誰かさんのせいで。

 え?あの子たちが家出する筈もないでしょう。あの子たちは、とてもいい子なんです。勉強も出来て、優しくて、しっかりしていて。私達夫婦の誇りです。きっと、何か事件に巻き込まれていたに違いないんです。それを、警察は、家出だなんて!あの子たちは、そんな子じゃありません。お友達も多いし、学校も楽しそうに通っています。理由が無いんですよ。家出する。

 そりゃ思春期だから悩みもあったでしょう。でも、あの子たちはきちんとそれを乗り越えていました。優しい子達でしたから、人一倍周りの事で悩んでいたようです。でも、きちんと自分で解決策を出し、納得のいく形で終わらせていたんです。しっかりしてましたから。私達に迷惑をかけた事など殆どありません。そりゃ中学の時は姉弟仲がぎくしゃくしたときがありましたが、ある日を境に、とても仲のいい姉弟になりましたし。

 おかえりください。これ以上帰らないなら主人を呼びますよ。あなた!あなた!もう、休日だからって寝てばかりいて・・・。もう、いいでしょう。帰って下さい。

 それに、あの子たちは帰って来たんです。色々な事があったけれど、結局帰って来たんですよ。それでいいじゃありませんか。はい?あの子たちが何も語りたくないというのならそれでいいじゃありませんか。かわいそうに。きっと何か大変な事に巻き込まれていたんでしょう。確かに真実を知りたい気持ちもあります。でも、私達は、あえて沈黙しあの子たちを抱きしめるだけの道を選んだのです。そして、今や以前と同じ生活を送っています。今、私たちは幸せに暮らしてるんです。他人の不幸は蜜の味な貴女には、物足りないかもしれませんが。

 ・・・貴女は何を言ってるんです?可笑しなことを言う人ですね。うちは、私と、主人と、息子1人と娘2人の5人家族。誰一人として居なかったり欠けてたりしませんよ。

 もう十分でしょう。そろそろ子供たちが帰ってきます。夕食の準備も始めなくては。


 もう、お引き取り下さいな。