とある公園ベンチにて。




 うっわ。あんた全然変わってないじゃん。髪形変えたくらい?すご。いやいやいや、相変わらず綺麗だねってことでよろしく。A組のラプンツェルとか懐かしいよなー。あのお陰で彼女がキレたりしたし。あれは少しだけ命の危険感じたね。ま、いいけど。てか、あんた、唯乃に会ったそうじゃん。なんか珍しく唯乃が機嫌よく俺に別の女と会うこと許してきたんだけど。何したの?ええー?と、いうかあんた運良いよな。もし俺と唯乃の会う順番逆だったら、今頃あんた、行方不明か、口きけなくなってるね。唯乃も、もうちっと手加減してくれればいいんだけどなー。・・・って、あんまり動揺してなくね?え、もしかして、その事を想定した上での、この順番だった?何その意味深な笑顔。いや黙られたらこっちが困るんですけど。
 
 唯乃は、俺の愛しの彼女(笑)な訳だけどさ。いや、もう彼女じゃ無くて、奥さんか。あ、ありがとうございます。ちょっと嫉妬心が強いんだよなー。まあ、そんな所も可愛いけど。見てよ、俺のバッグ、盗聴器と発信器がわんさか。一ついる?あっそ。で、あいつ、俺が他の女とちょっと世間話しただけで、怒り狂ってさー。昔は俺に当たられてたんだけど、近頃はその女が被害にあって、まあ可哀想可哀そう。ちょっと俺と話しただけで刺されたり薬品浴びせられたり精神追い詰められたりしててさ。そういや、何で俺じゃなくその相手に当たる様になったんだろうな?ま、どーでもいいけど。え、そりゃ勿論止めるって。殺すなよって。でもさー、彼女が嫉妬で顔真っ赤にして怒ってるのって、俺的にちょっと嬉しかったりするんだよね。あー、こいつの頭ん中俺一色じゃん?みたいな?俺色に染まれ!とか男のロマンだって。

 まあ、そんな俺も昔は先輩が好きだった・・・か?あれはどっちかってーと憧れに近いもんだったけどな。それにそう言ってりゃ斎藤の奴が面白いくらいに突っかかってきたしな。あのいっつもすかしたよーな顔してる斎藤が、そん時ばかりは眉寄せてさー。あー今思い出しても愉快愉快。先輩と話して、ちょっとスキンシップでもすれば、その後に「矢坂、死ね」って斎藤からの急所を寸分違わず狙って教科書投げられてな。しかも国語、あまつさえ現文の教科書だぞー?ちょっとした本くらいある教科書を米神狙って投げてくるあいつもあいつだ。そりゃ先輩も好きだったけどな。美人だったし。でもどっちかってーと、斎藤の反応の方が楽しくて、事あるごとに先輩に絡んでたな。先輩も薄々そんな雰囲気は気付いてたなありゃ。俺がどんなに先輩に思わせぶりな事言っても、笑顔でスルー。そして後ろからは俺の筆箱が俺の頭狙って飛んでくる。いやー、俺よく無事だったなー。っつうか斎藤もシスコンすぎるっつうの。シスコンって使い方合ってんのか?シスターコンプレックスだよな?シスターって姉も指すよな?だよな。あの斎藤姉弟、ぜってー一線越してるって。ゲームかAVみてぇ。あ、でもあいつらの下の妹さんとはちょっと距離あったよな。やっぱ双子と3つ下の妹って、距離感が出来るもんなのかね。俺には分かんねーけどさぁ。

 下の妹さんと言えば、今斎藤の家大変だよなー。妹さん会った?お、仕事早ー。名前・・・偲ちゃんか。いいねえ女子高生・・・っつてもあー、受験生か?あー、そりゃ大変だな。偲ちゃんとお母さんの二人っきりで暮らしてるんだろ?生活費とか、どうしてるんだろうな。あ、へぇ、お母さんのパートと祖父母の援助ねぇ。斎藤んちには、斎藤が居なくなって1度行ったけど、2度目はねぇだろうな。怖いもん、あそこのおかーさま。お母さん会った?え、もう会ってるってか、もしかして俺会うの最後の方?うは、まじか。あー、で、あそこのおかーさま、ちょっとあれだよな?そうそう、あれって、本気・・・だよな。本気で、斎藤達が帰ってきたと思ってるよな。流石に俺もぞっとしたぞー。気持ちは分からなくもないけど、まあ、可哀想だよな。偲ちゃんも大変だろうに。きちんと生活出来てる分、まあ救いがあるか。

 あー、いい天気。もうすぐ春だよなー。まあ、まだカレンダーとか気温とかではばっちし冬だけど、不意の一瞬、もうすぐ春が来るんだって思うよな。桜も早く咲いて、花見とかしてぇなー。あ、今俺爺さんくさい?うっわー、もうすでに老化現象が!?あーでも、桜は良いよなー。そうそう、斎藤達が居なくなったのも、桜が咲いていた時期だった気が。あー、そうだ、だから、変な噂が流れたんだよ。実は斎藤達は桜の下に埋められたのなんだの。勝手に人を殺すなよって感じだけどさ。でもあながち、嘘だとも言いきれんなー。なんか、そういう古典的シチュ、妙にあいつらに似合うし。ま、俺はあいつが生きてようが死んでようがどっちでもいいが、生きてた方が嬉しいっつうか?からかう相手がいねぇのはつまんないしな。

 そういやあんた、斎藤の小説読んだ?あれめっちゃうけたの俺だけ?何か俺にだけ妙に敵意を感じる小説だったんですけど。だよな!あいつ俺の事どんだけ嫌いだったんだよ。あーでも、あいつにあんな小説書ける才能っつうの?があるとは知らなかったわ。本暇さえありゃ読んでたのは知ってるけど、まさか、あんなファンタジー書くとは。もっとこってこての、太宰治とか、そこら辺目指して書くのかと思ってた。勝手なイメージだけどな。ま、ファンタジーで太宰治みたいな小説にはなってたな。しかも、あんな設定、良く考え付くよ。しかも、モデル自分たちで。こっ恥ずかしくねぇのかね。そういやあんたも出てたな。あんたのあの設定、本人としてはどうな訳?何だっけ。『個人の判別がつかない。人間全てが同じ人に見える』だっけ?恥ずかしくね?ちょ、だんまり禁止ー。何その意味深笑顔パートツー。うーん、なかなかあんた攻略しにくいね。・・・そういや、あいつ俺と唯乃は、余計な設定付けしなかったな。流石に怒ると思ったのか?んなら、他の人にも余計な事しなきゃいいのに。

 うー、何か飲み物欲しくなってきた。自販機で買ってくるから、あんた、何か飲みたいのある?え、いいっていいって、俺が買ってくるから。あんたは座ってろって。あー、じゃあじゃんけんな。はいじゃーんけーん。・・・うわ俺勝ったし。普通言い出しっぺが負けるんじゃねぇの?・・・オッケー、ありがとう。んじゃ、あったかい緑茶、お願いしますー。はい、150円。いってらっさい。

 あー、このベンチ座ります?いいですよ、俺若いし。それに、妊婦さんが疲れた様にきょろきょろしてて、ベンチ譲らないとかそっちのほうが後味悪いですし。どうぞどうぞ。それに、ほら、あっちが。いえいえー。


 ・・・おかえりー。こっちこっち。あんた、元いたベンチ座ろうとしたっしょ。ん、さっき譲ったの。あ、ありがと。おー、あったけー。

 ・・・・。まって。あんた、何で、元いたベンチに座ろうとしたのさ。確かに俺は違うベンチが丁度空いて、違う所に居たけどね。元いたベンチ、俺らが今いるベンチ、距離にして5メートルあるかないかだぜー?逆に何で気付かない?めっちゃこっち来る時俺の方見たよな?それで、その上で元いたベンチに座ろうとしたよな。あれ、何で?もしかして、元いたベンチにいる妊婦さん、俺だと思った?

 ・・・もーやだ。そう言う事?ってことはあれ、全部、本当な訳?嘘だろ。普通じゃねぇって。俺と唯乃があの小説の中では普通に見えたけど、何、現実もそうだった訳?無い無い無い。

・・・ はー。もう、おしまいにしようぜ。何かどっと疲れた。また用がある時は適当に呼んで。今俺混乱真っ只中だから。はーい。じゃー。